住友ファーマ
迫る「ラツーダクリフ」 克服のカギは開発成功の確度
2018/11/15 AnswersNews編集部 前田雄樹・亀田真由
最主力品「ラツーダ」の特許切れを控える大日本住友製薬。17年度は過去最高益を更新したものの、特許切れの崖を乗り越えるための”特効薬”を発売できず、苦しい局面に立たされています。経営のスリム化や後期開発品の獲得で対策を行っており、北米でのがん事業の立ち上げと自社製品の発売が待たれます。
17年度は過去最高益
大日本住友製薬の17年度の業績は、売上高4668億円(前年度比14.3%増)、営業利益882億円(118.9%増)でした。抗がん剤「ナパブカシン」の胃がんを対象とした臨床試験を中止したことに伴い、費用の戻入が発生したことなどにより、過去最高益を更新しました。
地域別にみると、北米・日本・中国など、すべてのセグメントで増収増益を達成。北米では統合失調症治療薬「ラツーダ」とてんかん治療薬「アプティオム」の売上増が貢献しました。08年度以来、9年ぶりの増収となった日本では、日本イーライリリーから販売権を獲得した2型糖尿病治療薬「トルリシティ」が2倍以上に売り上げを拡大。長期収載品による落ち込みをカバーしました。
北米依存体質にヒビ
ここ数年の大日本住友を牽引してきたのは、11年に米国で発売したラツーダ。11年度69億円だった売り上げは17年度1786億円となり、売り上げの4割を占めるブロックバスターに成長しました。その間、海外売上比率は37.2%から60.3%まで上昇。最近では、消費者向けのテレビCMが効果を上げており、18年度は1935億円を見込んでいます。
一方、北米以外の日本・中国などは18年度、減収減益を予想しています。
特に国内では、トルリシティ以外、軒並み前年度から売り上げを落とす見通し。高血圧治療薬「アイミクス」には18年6月に後発医薬品が参入し、薬価引き下げも響きます。国内の売り上げは、ピークだった08年度の1850億円から18年度には1300億円まで落ち込む見通し。17年度は一時的に増収となったものの、国内事業は再び減収に転じます。
国内の低迷は続きますが、これまで通り北米の売り上げに頼ることも難しくなってきています。
その要因は、屋台骨であるラツーダの特許切れ。現在、米国で後発品メーカーと特許侵害訴訟を複数行っており、具体的な時期はまだ確定していませんが、近い将来、後発品が参入し、売り上げが大きく落ち込むと予想されています。
テコ入れが間に合わなかった原因は「開発の遅れ」
ラツーダクリフに備え、大日本住友もさまざまな手を打ってきましたが、テコ入れは間に合っていません。
12年の米ボストン・バイオメディカル買収で獲得したナパブカシンは、17年6月に胃がんを対象に進めていた臨床第3相(P3)試験に失敗。ポスト・ラツーダとして期待したがん領域の立ち上げにはまだ至っていません。
看板品のラツーダも、日本と欧州への展開に苦戦。日本では統合失調症を対象に行った試験で期待した結果が得られず、発売が遅れています。欧州では発売にこぎつけたものの、武田薬品工業との販売提携を解消。再び提携先を探すことを余儀なくされ、販売は低調です。
苦しい状況を打破するため、経営のスリム化にも取り組んでいます。16、17年度に行った早期退職には計381人が応募。17年度には喘息・アレルギー性鼻炎治療薬のシクレソニド3製品を譲渡し、18年度には生産拠点の再編を行いました。
「即戦力」は崖を超える切り札になるか
大日本住友にとって喫緊の課題は、向こう数年で収益に貢献する製品の確保です。
16年にはカナダのシナプサス社を買収。獲得したパーキンソン病治療薬の舌下フィルム剤「アポモルヒネ」は、米国で承認申請中です。17年1月には米トレロ社を買収し、白血病治療薬「alvocidib」をパイプラインに追加しました。同剤は米国でP2試験を実施中で、20年度の発売を目標としています。大日本住友はこれらの新薬でピーク時に500億円規模の売り上げを期待。これとは別に、スイス・ノバルティスから導入した3つのCOPD治療薬を17年に発売しています。
ただ、開発は必ずしも順調ではありません。ADHDを対象に申請していた「dasotraline」は、18年9月に米FDA(食品医薬品局)から追加の臨床データを要求され、承認が先送りされました。大日本住友にとっては「開発の成功確度」が依然として重要な課題となっています。
国内事業でも、導入や提携に力を入れており、仏ポクセル社から導入した2型糖尿病治療薬「imeglimin」はP3試験を開始。強みを持つ精神神経領域では、19年度に統合失調症治療薬「ロナセン(テープ剤)」、20年度にラツーダの発売を控えており、MRの増員など営業力強化に取り組んでいます。これら新薬の発売により、23年度をめどに、低迷する国内事業を売上高2000億円まで引き上げることを目指しています。
ラツーダクリフが目前に迫る大日本住友。特許切れのインパクトを最小限に抑え、成長軌道に戻れるかどうかは、新薬の開発にかかっています。パイプラインの拡充に向け今後も積極的な投資を行っていくとみられ、ラツーダの特許侵害訴訟により公表を遅らせている中期経営計画に注目が集まります。
【コラム】将来をかける再生・細胞医薬事業立上げ
2030年に向けて、大日本住友は再生・細胞医薬事業を中核事業に育てようと力を入れています。
同社は90年代から神経再生の研究に着手。13年には専任部署を設立し、現在はヘリオス社などのバイオベンチャーやアカデミアとの提携で5つのプロジェクトを進めています。18年3月には再生・細胞医薬を製造する自社プラント「SMaRT」が竣工。同プラントでは、iPS細胞を使った再生・細胞医薬品の製造を予定しており、商業用としては世界初の製造施設です。
この分野で最も開発が進んでいるのは、14年からサンバイオ社と共同開発しているSB623です。現在米国でP2試験が進行中で、22年度の発売が目標。ピーク時には1000億円規模の売り上げを見込みます。また、京都大学iPS細胞研究所と共同研究しているパーキンソン病治療法は、18年8月に医師主導のP1/2試験を開始。同じく22年度の実用化が視野に入っています。
30年には再生・細胞医薬事業全体で2000億円の売り上げを期待しており、この事業の立上げがラツーダクリフを乗り越えた先の大日本住友を左右することになりそうです。
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